平成が終わりついに令和の時代に突入。昭和、平成という2つの時代を駆け抜けた富士そばにとっては3つ目の年号ということになります。今回は富士そばファンでも意外と知らない、富士そばの歴史のお話。富士そば歴45年という古参社員、川村宏にその歴史を振り返ってもらいました。舞台は富士そば全129店舗の中でも現存する最古の店、西荻窪店です！

まずは基礎知識。富士そばは丹道夫により1966年（昭和41年）に開かれました。1号店は渋谷、2号店は新宿、そして3号店は池袋と、東京でも有数の繁華街に続々と店をオープンしていきます。そんな中、4番目の店として造られたのが西荻窪店でした。

写真は昭和49年頃の池袋店

「ぼくが入社したときには既にこの4店舗がありましたね」

そう、昔を懐かしそうに話すのが、ダイタンホールディングス株式会社の相談役を務める川村宏。1955年に19歳で入社した、彼は最古参社員として現在は海外事業のバックアップをしています。そんな彼からみても、この西荻店は特徴的な店だったそう。

「渋谷から始まり創業当時にできた3店舗はいずれも繁華街でした。けれど、西荻窪店は駅前というスタイル。これは画期的なことでしたね」

　当時は会長の義理の弟に当る竹内氏が中心となり会社を盛り立てて、不動産屋からオススメの立地を教えてもらいながら徐々に店舗を増やしていったそう。そんな中、繁華街での営業というそれまでとは違う形を打ち立てたのが、この西荻窪店でした。

「西荻窪のこの店に出店したいきさつまでは知りませんが、人が集まるところ、通行量が多いところということは当然意識したと思います。そしてこれは、今も出店するときにもっとも考えることの一つですね」

　西荻窪店の成功は、駅前への出店が多い富士そばの出店スタイルにつながっていったということができるかもしれません。

「駅前という立地もあって、西荻窪店は一頃、今川焼きや鯛焼きを売ったりしたこともありました。ものすごく売れる店というわけではないですが、地道に駅前でやってきたということが長く生き残ることにつながったのでは」

　東京の街も西荻窪も大きく様変わりする中、西荻窪の駅前の風景として、今も富士そばののれんがはためいています。

「このへんもだいぶ変わりましたね。昔ながらの店もだいぶ少なくなったという印象。それでもこの店が40年以上ここにあるというのはうれしいですね」

長い歴史の中で変わったこと、変わっていないこと

富士そばの歴史を知る川村に今と昔の違いを聞いてみると面白いことがわかりました。

「それは何と言っても、食べ方だと思います。今は座って食べるでしょ。昔は立ち食いばかりだったんですよ」

　立ち食いそば店というイメージがある富士そばですが、確かにいわれてみると現在はテーブル席やカウンターでゆったりとくつろげます。純然たる立ち食いスタイルは笹塚店だけなのだそう。これには、味の改善が大きく関わっているようです。

「平成元年頃に、生そばを出し店内でゆであげるようになりました。それまでは茹でそばを温めていたんですよ。これにより品質が向上したので、食べ方も街のおそば屋に近づけようということで座って食べる形が浸透していきました」

このように平成の時代を通し、より美味しく、より来やすい店へと富士そばは進化していったのです。

「逆に変わってないことは、大勢のお客さんに利用してもらいたいということですね。立地、24時間営業という利便性の追求は昔から変わりません」

　昔からいつでも食べられる店という便利さは変わらないといいます。川村によれば昔は今以上に忙しかったそう。

「昔はかけそばが100円くらいの時代もありましたから、とにかく回転の早さが大事でしたね。高度経済成長期、食べ物は味わうものというより、エネルギーの源だったからとにかくお客様はあっという間に食べていました。その後バブルに入ってからはとにかく深夜帯が混雑。タクシーがつねに人を乗せて走っていた時代だったから、飲んだ後に帰れなくなった人たちが何重にもなって食べにきてくれたんですよ」

　なるほど、富士そばが時代とともに成長してきた店であることがよくわかるエピソード。昭和、平成を地道に歩んできたんですね。

　富士そばの現存する最古店、西荻窪駅南口を出てすぐにある、西荻窪店は今年の3月に大リニューアル。

以前よりも広くなりさらに快適になりましたが、富士そばの歴史を物語る店としてその威厳を保ち続けています。実はこの店、漫画家でエッセイストの東海林さだおさんが足繁く通った伝説の店としても有名。平成から令和、時代の移り変わる今だからこそ一度足を運び、その歴史に触れてみてはいかがでしょうか。

富士そば西荻窪店店舗情報

杉並区西荻南3-9-7